逃げ恥の第8話が素晴らしすぎたので、その感想です。
すでに見た方向けの内容となります。
原作は未読なのですが、脚本の野木亜紀子さんが放送前に熱意を持ったツイートをしていたこともあり、
1話から欠かさず観ています。
(1)小説や漫画という二次元の媒体と、ドラマや映画という三次元の媒体は、それぞれ違った特性を持っており、ベストな見せ方はそれぞれに異なります。また、漫画とドラマの一話分はボリュームがまったく異なるため、ドラマはドラマとしての再構成が必要で、それに合わせた改変が生じます。→
— アンナチュラルな野木亜紀子 (@nog_ak) 2016年10月10日
(2)中でも最近強く思うのは「ドラマや映画は、見る側が時間をコントロールできない」ということ。映像作品の流れる時間の中では、あまりに画変わりがしないと飽きてきたり、動きのあるシーンが欲しくなったりします。ただ、見せ方が変わっても、作品の芯を変えないことを心がけています。→
— アンナチュラルな野木亜紀子 (@nog_ak) 2016年10月10日
脚本家がこういったツイートをしてくれることは本当にありがたく思います。(3)いわゆる『実写化』について多くの皆さんそれぞれ思う所がおありでしょうが、作る側としてはこんなことを考えてます。ということを再掲の再掲しつつ10/11よる10時スタート『逃げるは恥だが役に立つ』を宜しくお願いします。 #逃げ恥https://t.co/9Q69OzYhhC
— アンナチュラルな野木亜紀子 (@nog_ak) 2016年10月10日
第8話の演出は石井康晴さん。
『流星の絆』や『白夜行』などの演出の一部をやられていた方です。
逃げ恥では第5話の演出も担当されています。
【スポンサードリンク】
さて、本題に入ります。
第8話で特に素晴らしかったのが、居酒屋での平匡(星野源)と風見(大谷亮平)との会話から、エンディングにかけてです。
上記のシーン、本当に全てです。
他者との関係性と自尊心(自己承認)は、逃げ恥の最重要テーマで、繰り返し語られています。
平匡は特に恋愛において、自尊心が低いことも相まって、
ちゃんとしたプロセスを経ずとも、二人同士が分かり合えることを期待してしまっている節が強いです。
そして、分かっていながらこうも思ってしまっています。
「僕は風見さんのようにはなれない」
平匡が風見に勝てると思っているのはみくり(新垣結衣)と一緒にいる時間だけで、
その差すら飛び越えて、風見はみくりのことを知ってしまっているのだろうか。
そんな相手、はなっから敵いっこないじゃないか。
頭の中には第4話に出てきた光景が浮かんでいたのかもしれません。
そして、みくりへ。
この「無償の愛」という言葉は、逃げ恥においてとても面白い意味を持ちます。
詳しくは後ほど。
百合ちゃん(石田ゆり子)の車内から風見の回想へ。
この後に続く「全然違うんだもの」という言葉。
言うまでもないというか、完全に説明されちゃってますが先ほどの平匡と重ねています。
逃げ恥はこんな感じで、1話の中で回収することが多く、
説明もかなり入れてくれるので、視聴者側はあまり気合いを入れなくても見ることができます。
風見は中学生時点で、人がそれぞれ違うことは理解しているという成熟ぶり。
そして、それを解決するのも自分という思想の持ち主。
「あなたにどれだけ拒絶されても、大好きだよって言ってあげればよかったんでしょうか」
「自分ばかり見ている彼女に何を言えばよかったんでしょう?」
この2つのフレーズが、後につながるとても大切な意味を持っています。
ここの演出は非常にお見事!
冒頭の野木さんのツイートにもリンクしてきますが、映像表現の方が向いていることがあると私も思います。
その1つがこの光と影の描写なのです。
ここでの冷蔵庫から漏れる光は、光側にいる人物、みくりと風見を表しています。
そして、外の暗闇にいるのが平匡です。
冷蔵庫を通して2つの世界を描いたのはとても素晴らしいと思います。
みくりは平匡のために、料理をたくさん作ってあげていました。
しかも、そのどれもにメッセージを添えて。
無償の愛はありません。
契約をしているのだから、見返り(有償)が必要なはずです。
家事代行を行っているみくりにとっては、純粋な契約の話で言えば金銭が見返りです。
ただ、今回の見返りは金銭を期待しているのでしょうか?
料理をしている間、みくりの中には平匡の顔が浮かんでいるはずで、
ここでの見返り、有償の愛として求めているものは違うのだと思います。
ここでもう一度、先ほどの風見の2つのフレーズを振り返ります。
「あなたにどれだけ拒絶されても、大好きだよって言ってあげればよかったんでしょうか」
「自分ばかり見ている彼女に何を言えばよかったんでしょう?」
みくりは平匡に拒絶されながらも、自分のことだけを考えていた平匡に言葉をかけました。
それは「大好き」という直接的な気持ちではなくて、「あなたのことを想っている」という気持ちでした。
最終的な答えを出すのはもちろん自分です。
しかし、「あなたのことを想っている人が世界中に自分以外にいること」
ということが答えを導く手助けになるかもしれません。
人が人に手を差し伸べるのは、みんながみんなそれぞれ違うことが分かっているからなのです。
第4話で平匡が感じていたこの気持ちが、冷蔵庫というメタファーを通してするりと抜けてきました。
レンジで温めたのは温度だけではなかったようです。
ここで百合ちゃんが言っている車っていうのは暗に「恋人」を指しているのかな...?
バスや自転車などの代替物(つまり友達とか家族とか)でも行けるところや行きやすいところはあるけれど、
その関係性じゃなければ見えてこないものもあるのよ、とそんな意味合いなのかしら。
恋人がいなくても困らないけれど、恋人がいなければ辿り着けないところもあるよね、みたいな。
※それを百合ちゃんが言うのかーというのは禁句です。
桜(富田靖子)がみくりに投げかける言葉。
そして、二人の電話。
二人が自分の気持ちを素直に話せた瞬間。
あの冷蔵庫から漏れていた光が、平匡を一歩先に進めてくれました。
「303号室に帰ります」という言葉は、平匡への回答でもあり、
「ずっといてもいいのよ」と言った桜に対する回答でもあります。
303号室に帰ってきたみくりが目にするのは、平匡からの見返り。
*
いやーお手本のような完璧な流れでしたね。
上でまとめた後半20分は全ての話が繋がっていて、本当に無駄がありません。
後半になるにつれて、どんどん話がよくなっていっています。
みくりと平匡はまだルールに縛られています。
火曜日以外にハグをするシーンが最後に見られるのかな。
それが楽しみです。
残り話数は少ないですが、制作陣の皆様、
これからも楽しい物語の提供をお願い致します。
TBS系 火曜ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」オリジナル・サウンドトラック
- アーティスト: オリジナル・サウンドトラック
- 出版社/メーカー: SMM itaku (music)
- 発売日: 2016/12/07
- メディア: CD
- この商品を含むブログ (3件) を見る