遅ればせながら、「怒り」を観たのでその感想。(ネタバレあり)
予告
あらすじ
殺人事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?
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感想(原作は未読)
テーマは「人を信じることの難しさと裏切り」でしょうか。
優馬(妻夫木聡)にしても、愛子(宮崎あおい)にしても、
洋平(渡辺謙)にしても、田代(松山ケンイチ)にしても、
登場人物のほとんどが想い人を信じることが出来ませんでした。
特筆すべきは、洋平(渡辺謙)が愛子(宮崎あおい)を信じてあげられなかったというところ。
ここは、劇中ではっきりと明日香(池脇千鶴)によって説明されています。
最後、田代を連れて戻る途中の愛子に洋平が声を掛けるシーンがありましたが、
「いや、いい」と思い留まってしまいます。
そこは言ってあげて欲しかったな〜、愛子にとって救いになると思うのに。
個人的に、むう、と思ったのはそのシーンぐらいで、後は素晴らしいシーンの連続でした。
●キャストについて
圧倒的キャスト力。
特に素晴らしかったのは、妻夫木聡の飄々とした歩き方、綾野剛が見せる全表情、松山ケンイチ登場時の鋭い目つき。
全キャストが自分の仕事を全うしていました。
婦人公論に出ていた妻夫木聡と綾野剛のエピソードも良かったです。
●音楽について
音楽も良かった、坂本龍一。
主題歌となる「M21 - 許し forgiveness 」は、ミニマルな音楽な面も持ちつつ、
重厚さも併せ持っている音楽。
「M18 - 真実 truth」はもう暴力的。
音楽の暴力。
ここまで感情を煽ってしまうと、さすがにやり過ぎではないのかな。
私は感情に寄り添う劇伴が好きだけれど、これは「人を殺しかねない」、そう思いました。
観終わった後、ふらっと電車に飛び込んでもおかしくないくらい。
そのくらい心情を揺さぶられる。
それはいい音楽でもあるということだけれど。
この音楽に、そこまでの覚悟はあるのだろうか?
映画を観た人ならば、この音楽を聴くだけで、あのシーン、あの部屋の様子が浮かび上がると思います。
それが克明に思い浮かんでしまって、私はすごく辛くなってしまったし、
その後もしばらくはこれを引きずっていました。
劇伴は全体的に好きですが、このトラックだけは手放しには褒められません。
*
構成、素晴らしかったです。
東京、千葉、沖縄と目まぐるしく舞台が変わっていくのに、
観ている者を置いてけぼりにしないし、飽きさせないカット割り。
作品の持つ空気に似つかわしくないくらいのエンターテイメント性でした。
千葉編のモノローグが流れている中で、東京編を進行させていたりして、
そこに違和感を覚えさせないことは凄いな〜と思いました。
後は、山神を俯瞰ショットで撮っていたところが好きでした。
山神の回想は、昔の自分を思い出してしまって、苦しい思いで観ました。
人と比べていた自分。自分の位置を相対的に求めていた自分。
あのままの状態だったら、自分は山神と何も変わらなかったなあ。
今はだいぶ自由です。
こういう事件が起こると、必ずワイドショーで取り上げられますよね。
「犯人の素顔に迫る」とかいって、生活や家庭環境を根掘り葉掘り。
そういった情報から、勝手にその人のことを分かったような気になったり。
世の中の人を、「分かる」か「分からないか」の2つに分けて。
人を信じるって、そういうことじゃないでしょ?
人と人は分かり合えないからこそ、信じるという行為が尊く、美しく見えるのだと思います。
いい映画でした。
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