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【映画】バケモノの子を観た感想

「バケモノの子」をみたのでその感想。(ネタバレあり)
観た後すぐに感想を書ければよかったのですが、時間が空いてしまったので記憶違い等あるやもしれぬ…。

予告


あらすじ

9歳の少年・蓮は、両親の離婚で父親と離れることになり、親権を取った母親も交通事故で急死してしまう。
両親がいなくなった蓮は親戚に養子として貰われそうになるが、引越しの最中に逃げ出し、渋谷の街を独り彷徨っていた。
行くあてもなく裏通りでうずくまっていた夜、蓮は「熊徹」と名乗る熊のような容姿をしたバケモノ(獣人)に出逢うが、すぐに見失ってしまう。
蓮は、「独りでも生きていきたい」との思いから、『強さ』を求めてそのバケモノを探しているうちに、バケモノの世界【渋天街】へ迷い込んでしまう。
元の渋谷に戻ろうとするが、不思議なことに来たはずの道は閉ざされていた。


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感想

「おおかみこどもの雨と雪」以来、約3年ぶりの細田守×高木正勝コンビ。(以降も敬称略)

キャストについて

九太役の宮崎あおいは違和感が拭えなかった。
宮崎あおいは前作の花が素晴らしすぎたので、どうしても比べてしまう影響があるかもしれない。
二郎丸の青年期はTHE☆山口勝平という感じで、いくら演技派芸能人の中に混じろうとも浮いて聞こえる。
芸能人と声優を混ぜるのならば、「サマーウォーズ」の玉川紗己子がちょうどいいバランスの起用だと思っている。

演技どうこう抜きにして、リリー・フランキーの声はホントに好きな声で落ち着く。個人的にかなり癒された。
女性の声で一番好きなのは、深津絵里だけど、男性の声で一番好きなのはリリー・フランキー。
つまり、大和ハウスのCM最高ということ。*1

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音楽について

「おおかみこどもの雨と雪」の劇伴を務めた高木正勝が続投。
この映画を見に行った理由の8割はこの人の劇伴が聞きたかったからだ。
「おおかみこどもの雨と雪」では、なんといっても「きときと」が素晴らしかった。
その後、サントリーのCMに使われていたりして、
ふだんサントラを聴かぬ人たちの心までも掴んだなかなか珍しいケースだと思う。

最近では、メリットのCMも手掛けていたりして、「きときと」と同系統の美しさのニオイがしてよい。
(中条あやみの透明感も相まってよい)


高木正勝といえばピアノのイメージが強いが、今作ではオーケストラ寄りの音楽となっている。
予告編でも使われている『祝祭』は良い出来で、物語に上手いこと追従するような音楽だ。
『風は飛んだ』のデモ音源をTwitterに載せていたので紹介する。


緑に囲まれる生活をしているからか、やはり自然と相性が良い。
個人的オススメ曲は『子どもの宇宙』、いいタイトルだ。

↓サントラの参考用視聴リンク(PC Only)
『バケモノの子』

バケモノの子 オリジナル・サウンドトラック(通常盤)

バケモノの子 オリジナル・サウンドトラック(通常盤)



ストーリーについて

細田監督の近年の作品はほぼ観ている。
テーマが毎回(監督の)生活に根差しているといった印象が強い。
インタビューにて着想のキッカケを聞かれた時も、

3年前の前作『おおかみこどもの雨と雪』公開後、僕に息子が生まれたことが、やはり一番大きなキッカケかもしれません。
前作では「子どもを育てるお母さんというのは大変な思いをして育てている、それが素晴らしい」という映画がないな、というのが着想のキッカケでした。
今回考えたのは「子どもがこの世の中で、どうやって成長して大きくなっていくのだろう」ということ。
自分自身が親となって実感したことでもあるのですが、子どもというのは親が育てているようでいて、実はあまりそうではなく、
もっと沢山の人に育てられているのではないかなという気がするのです。
父親のことなんか忘れて、心の師匠みたいな人が現れて、その人の存在が大きくなっていくだろう。
そうしたら、父親、つまり僕のことなんて忘れちゃうかもしれない(笑)。
それが微笑ましいというか、それぐらい誇らしい成長を遂げてくれたら嬉しいなということを自分の子どもに対して思うのです。
子どもが沢山の人から影響を受けて成長していく様を、この映画を通して考えていきたいです。
そういう映画はあるようでないと思うので、そこが凄くチャレンジではないかと思います。

というように述べている。

引用元:

ストーリーに入る前に、まずバックボーンの話から。
エンドクレジットまでしっかり見ると、本作では参考文献として『白鯨』『山月記』『悟浄出世』が挙げられている。
その中で最も下敷きになっているのが『悟浄出世』である。*2
簡単にいうと、悟浄が「自分とは何なのか」という問い(現代版自分探し)への回答を得るため、遍歴に出るといった話だ。
本編で突然始まった「強さとは何なのか」というお使いクエストはまさにこの部分をモチーフにしている。
王道的なストーリーであればラストで「自身の考える強さ」*3を大きく打ち出して決めるのが一般的だが、それをしなかった。
元作品である『悟浄出世』でも「自分とは何なのか」という明確な答えは提示されない。
その辺もあやかっているのだろうか?

『山月記』は、国語の教科書にも載っているぐらいなので、それなりに知名度があるだろう。
人間が心に闇を抱えてバケモノになってしまう節などが、まさにそう。
参考文献に書くほどかは少し疑問だけど、中島敦つながりで書いているのかも。
ミスチルの主題歌はどちらかというと『山月記』の内容にピッタリ。

『白鯨』はまんまの姿で登場するので省略。

本筋のストーリーについて。
細田監督が最も描きたいのは九太と熊徹の関係性である。
そのため、九太と熊徹を取り巻くメンバーの描写は過不足なく完璧だ。
人間界の師匠、楓もラストでは出しゃばり過ぎのような印象を受けるものの人物としての存在意義は感じる。
しかし、ラスボスこと一郎彦の掘り下げが圧倒的に足りない。
一郎彦についてはエピソード自体は何個あったものの、自分が猪王山の実の子ではないことについて葛藤する描写が薄く、
それがそのままキャラとしての魅力のなさに繋がってしまっている。
一郎彦は九太がそうなってしまったかもしれない、いわばもう一人の九太のような存在だ。
九太と熊徹の関係性を描くことを優先したあまり、この点がおざなりになってしまっていて残念。

また、九太の父親については出てくる必要性を感じなかった。
登場人物みんなを善人として描きたい八方美人にみえる。
せめて出すなら、楓とトレードオフするなど、どちらかに絞ってほしい。
もしくは、父親とすれ違うだけ or 父親に声を掛けられるものの振り向かない という演出でもいい。
父親に対しては後日談で少し心を開いている様子を映すぐらいの感度がちょうどよい。
いっぺんに話を進行させすぎて収拾がつかなくなっている。

心に剣のところはラストでいい伏線回収をし、うまいこと場の空気に飲まれてしまうような感覚を持たせていて、よかった。

映像について

なかなか緻密なロケハンで、渋谷の街がそのまま再現されている。(店の名称もそのまま使用しているのがスゴイ)
父親が住んでいるところも幡ヶ谷で、(渋天街を抜けば)渋谷区内で完結する物語である。

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もう公開から1ヶ月近く立ってしまったが、今から観る方はぜひ渋谷の劇場をオススメする。
渋谷ヒカリエでは過去の作品も含めた展示をやっているので、細田作品に愛着がある方は立ち寄ってもいいだろう。


後々思い返すと、(ましてやエントリを書くとなると、)あれやこれや気になる部分はあったが、
細田守が監督として、脚本として、そして一人の父親として、なにを伝えたいか?を表すには充分な映画だった。
上述の通り、九太と熊徹の関係性はよく描かれているためである。

是枝監督の『そして父になる』は父親の成長を描いた物語だが、
今作は熊徹にとっては『そして父になる』、九太にとっては『そして子になる』、というダブルストーリーだ。



今作では長年、脚本でタッグを組んできた奥寺佐渡子をメイン脚本から脚本協力としている。
その答えの片鱗を8/3放送の「プロフェッショナル 仕事の流儀」で感じた。
ラストシーン、胸の中の熊徹に九太は「俺のやることを黙って見てろ」と語りかける。
元々はその後の熊徹には台詞がないのだが、急遽「ああ、みててやらあ」といった台詞を追加するところが放送されていた。
これはつまり奥寺→細田への変化である。

現に今回は心情説明がやたら多く、説明調の映画となっている。
シーンで心情を代弁する奥寺脚本でいえばまずありえない。
映画ファンにも(おそらく)好まれないであろう。

監督の意識の片隅には「言葉で説明すること」を重視するといった意図があったのかもしれない。
意図的に変えたのか無意識で変えたのか、それはわからないが、前者であれば、一人で脚本をやりたがったのもうなずける。*4

ただ、これまで同様、奥寺をメイン脚本に据えていれば、人間界の描写はよりコンパクトになっていたと思うし、
数々の唐突な設定についても回収するかシナリオ変更となっていたはずだ。(過大評価?)
細田オンリー脚本が悪いわけではないが、細田×奥寺タッグは折りをみて復活させてほしいところだ。
何はともあれ、今後も期待したい監督であることは間違いない。

バケモノの子 (角川文庫)

バケモノの子 (角川文庫)


バケモノの子 ARTBOOK

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*1:

*2:青空文庫にて読める http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/2521_14527.html

*3:ex.これがおれの「強さ」のカタチだ等

*4:ただ、勘違いしてほしくないのは、「言葉で説明すること」≒「言葉でしっかり伝えないと分からない人がいるから、そうした」とは違うと思う