前置き
このところ映画をみたい衝動が沸き起こっていたものの、
私はあまり映画に詳しくないので、映像関係の友達にオススメの監督を聞いてみた。
そうしたところ、西川美和という女性監督がイイとの情報をもらったので、
早速、『夢売るふたり』、『ゆれる』をレンタルしてきた。
このエントリはその2つのうち、『夢売るふたり』に関する感想となる。
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あらすじ
市澤里子、貫也の夫婦は小料理屋「いちざわ」を経営していた。
しかし、営業中の火事で店を失い、再建を考える。
そのとき、常連客の睦島玲子が、不倫相手からの手切れ金を貫也に渡した。
それをきっかけに、二人は資金を結婚詐欺で集めようと計画する。
最初は、貫也がアルバイトする料亭の客からはじまった詐欺は、徐々にエスカレートする。
最初は「妻」として現われていた里子は、「妹」としてふるまうようになる。
新しい店の立地も決まり、什器の搬入もはじまる。
その中で、貫也は製本工場の娘でシングルマザーの木下滝子と知り合い、製本工場に勤めはじめる。
滝子の息子、恵太も彼になつくようになる。
一方、だまされた女性のひとり、棚橋咲月は私立探偵に依頼し、製本工場をつきとめる。
探偵の堂島とともにあらわれた咲月をみて、貫也は動揺する。
すると、恵太が貫也の包丁で堂島を刺す。貫也はその罪をかぶり服役、里子は大間漁港ではたらく。
そして、玲子のもとには、「いちざわ」の封筒にはいった現金が届くのであった。
感想
まず、この映画はあまり現実味がない。
不倫相手からの手切れ金を手にしたことで、結婚詐欺をしようと市澤里子(松たか子)が思い立つのだが、
そこにはかなり発想の飛躍が見られ、そういう展開なのかーと思ってしまったのが事実だ。
そのため、リアリティ主義者にはあまりオススメできない作品であることは確実である。
しかし、結婚詐欺を取り扱ってはいるが、それが主テーマというわけではない。
貫也(阿部サダヲ)は結婚詐欺をしていることに多少戸惑い、罪悪感を感じている節があるものの、
その葛藤に焦点をあてて深く描いたりはしていない。
なぜなら、結婚詐欺というのはあくまでもこの作品を彩るひとつのエッセンス*1に過ぎず、
本質的なテーマは『男女間の違い』(男が理解できない女、女が理解できない男)にあるからだ。
なんといっても特筆すべきは松たか子の演技だ。
特段、印象に残るシーンがひとつある。
結婚詐欺を繰り返すもののまだまだお金が足りない!という里子に、
「お前の足りんは、金やのうて『腹いせ』の足りんたい。お前は、女も、その女のまたぐらに顔を突っ込んでいる俺もなぶり殺しにしたいんやろ?その証拠に、お前は、今が一番いい顔をしている」
と貫也はいう。
それに対して、里子は鋭い視線で貫也を睨み、水の入ったコップを投げつけようとするが、
それを黙って飲み干し「カンちゃんがそう思うんならそれでいいよ」と返す。
今作における松たか子は(狂気的なまでに)献身的な妻という役柄だが、このシーンはそれを最もよくあらわしていて恐怖を感じた。
そもそもなぜここまで里子が貫也を愛しているか?は結局分からずじまいだったが、
今作においてはその背景を描かずにいて正解だと思う。
(下手に描いてしまうと、男が理解できない女、女が理解できない男の差を埋めてしまいそうだ)
結婚詐欺を繰り返すうちに、里子は貫也とすれ違ってきていることを切に感じ始める。
念願の「スカイツリーが見える新しい店を購入」*2したものの、準備は里子にまかせっきりで、
貫也は家にさえ戻ってこない。
そんなとき、店に現れたドブネズミをみて、里子はそれを自身の姿に重ねる。
ああ、これが本当の私の姿だと。
最終的に、貫也は結婚詐欺などの罪*3で、捕まることとなる。
里子はなんとか逃げ延びたものの、夢はすべて失くしてしまった。
結末として、里子が貫也の出所を待つのかどうかというのは明示されないが、たぶんきっと待つのだと思う。
またいつかあのときの夢売るふたりになれるよう。
正直、前評判の高かった『ゆれる』の前のつなぎに観ようくらいの意気込みであったが、
西川監督の間の取り方などが妙によく、そして、とにかく松たか子の演技が素晴らしく、心に残る映画となった。
この映画は女性が作った女性のための映画だが、ぜひカップルでみてほしいと思える内容だった。
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