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【本】ふたご 藤崎彩織(Saori) 感想

Saoriちゃんの本が出た。
私としては何年も待ち望んでいたものだった。

はじめに

まず、私のSaoriちゃんへの愛について説明しなくては、と思う。
Saoriちゃんは人によって好き嫌いがはっきりと分かれる人で、私は彼女にドハマリしてしまった。


私は昔から共依存についてすごく憧れがあった。*1
19歳ぐらいのときに、自分というものに対して"飽きた"という感情を覚えた。
何かのインプットを与えたときに、自分のアウトプットが容易に推測できてしまう、ことに気付いてしまったからだ。
精神が不安定になったときにはこうすればいいとか、そういったことへの対処も心得ていた。
自分の感情がほとんど"理性"で抑えられてしまうことは、人間として素晴らしいと思う反面、個としての虚しさも感じていた。

そのうちに、恋愛依存体質へとなった。
生きることに飢えないように、他人に新鮮さを求めた。
これは純粋な愛ではなく、何かのインプットを与えたときに、アウトプットが分からないモノに惹かれたといってもよいと思う。
しかし、変えられない相手に恋愛相手として依存することは、精神衛生上よくないことがすぐにわかった。

そして、恋愛感情を抜いた依存関係はどうだろう、と思いついた。
依存には対立はご法度だ。
恋愛感情があると、対立が生まれる場面が多い。
例えば、子供は欲しいかなど最終的にどちらかの答えを出さなきゃいけない問題は対立になりうるといった具合。
適度な距離感があって、そして恋愛関係に発展しない2人で依存しあえるのが理想の姿かも、と思った。


ちょうどそのとき趣味の合いそうな人と出会った。
便宜上、相手のことを相方と呼ぶことにする。
私たちは、2人の関係性を"ふたひと(2人で1人)"と呼びあった。
この言葉は相方から持ち出してきたので、運命を感じた。
私は恋人に話さない話を相方に話していたし、すべてを共有したいと思っていた。
2人は物理的に離れた位置にいたので、電話やSMSで多くやり取りし、直接会うことはあまりなかった。
この関係性は何年かした後に自然消滅してしまったが、この時期はとても理想的な日々を過ごしていた。
やっぱり関係性を維持するのは難しいなーと思っているときに、世の中にセカオワが出てきた。

セカオワのたいていの音楽に対しては、とくに揺さぶられるものはなかったが、『幻の命』という曲は別だった。
そこから、セカオワのことを調べはじめた。
SaoriちゃんとFukaseくんの関係性こそが自分のなしえなかったものだと思った。
特に、Saoriちゃんの自意識は美しくもあり醜くもあり、ゾクゾクするほど惹かれた。


私が一番好きなツイート。
そういうわけで、私は藤崎彩織の意識体、つまりSaoriちゃんを愛するようになった。

感想

"ふたご"というタイトルを見ただけで、私はこの作品がよいものになるとわかった。

本文で好きだった部分を紹介。

月島は少し驚いたように彼女を見て、それからペットボトルを受け取り、ごくりと一口飲んだ。
ふふ、と笑う彼女。
その光景は、自分でも驚くほどにショックだった。
ショックを受けてしまう自分を、少し遠くで見ている自分がまたショックを受けている。
知りたくなかった。
気づかないようにしていたのに、私はこんなにも女だったのだ。


自分が愛することが叶わなかった、すみれちゃんの中に居る男としての月島を、私は愛そうとしていた。
そんな曲がった愛情を持ってはいけない。
そんなことをしても、本当に月島のことを知ることができる訳ではない、と思う。
それなのに、すみれちゃんの話を聞いているうちに、私の知らない月島を知らなくては、と半ば義務感に近い気持ちさえ湧き上がってきた。
月島の全ての変化を知らなくては。

ともにSaoriちゃんの自意識をよく表している部分だと思う。
Fukaseくんの恋人になれないSaoriちゃんは共依存体としての(呪いみたいな)責任を果たそうとする。
FukaseくんがSaoriちゃんに言った"ふたご"という言葉は、ときには彼女を安心させ、ときには彼女を苦しませた。
これからも2人は"ふたごのよう"に生きていってほしいなと思う。


私は小説を読むとき、登場人物の声で読むことができる。
最近は技術書しか読んでいなかったので、無機質な声でずっと読んでいた。
今回は夏子の部分をSaoriちゃんの声で読んだ。
こんなに長いことSaoriちゃんの声を聴く機会というのは、初めてのことで、とても楽しかった。
しかし、夏子が泣くシーンで、脳内の朗読はぱたっと止まってしまった。
Saoriちゃんの泣くときの声が再生されなかった。
これはとても悲しいことだった。
この人のことをすべて知りたいと思っているのに。
そして、Fukaseくんはここも再生されるのだろうな、と思ってしまった。
すごく嫉妬した。
私はこれだけのことで不安定になってしまった。

自分の歪んだ愛情をこういった形で認識することになるとは思わなかった。
この本を他の人にオススメできるのかはわからない。
私の場合は少し特殊すぎると思う。

それでも、この小説を書いてくれたSaoriちゃんには感謝している。

ふたご

ふたご

*1:厳密な共依存とは異なると思う、私には強い自己愛があった

【日常】この街のこと

いつの間にか2年が経過していて、住んでいるマンションの契約更新を迎えた。

この街に住むことを決めた時の私の精神状態は頗る最悪で、
「とても一人では生きていける気がしない、ペット可の物件を教えてくれ」
と物件探しのプロに泣きついたことを覚えている。

「なにを飼うつもりなんですか」
と尋ねられたものの、特に具体的なプランも決まっていなかったので、
「生きていれば何でも」
と言った気がする。
この言葉だけを聞くと、無差別殺人事件を起こした犯人の犯行理由と大差ない気もするし、
紙一重とはこういう状態を指すのかもしれない。
確実に言えることは、その時の私にとって、ペットとはさながらアッラーのようなものだった。

プロは、
「このまま飼わないかもしれないので、飼う時に敷金などを追加で払うタイプの物件がいいですね」
とのたまっていた。
私も異論なかったため、同意した。
この決断は間違いなく正しくて、結局2年経った今も人間独りで生活している。
プロのプロたる所以だ。

しかし、その選択に至るまでには、もう一つ裏話がある。
猫6匹と暮らす友人に「何を飼うか決めあぐねている」とLINEを送った時のことだ。

何時間か経ち、返信が来た。
「大切なことだから、ちゃんと答えるね」と前置きLINEを挟んだ後、
『命を扱うことについて』というテーマで書かれた原稿用紙2枚ほどの大作LINEが私の元に届いた。
結びには、「自分を癒すとかそういう目的でペットを飼ってほしくない、と私は思います」と書かれていた。
彼女はとても誠実な人だった。
私は彼女のほとばしる熱意に全ての動物エネルギーを吸い取られてしまい、それからペットを飼うという発想が枯れてしまった。

これだけ聞くと、ペット可の物件にペットを飼わずに住むメリットがないように思えるが、一つだけ良い点があった。
「ペット可の物件には、ペットを飼っている人が住んでいる(ことが多い)」ということだ。

筋肉をつけまくり、「いざとなればオレはあいつを殺れる」みたいな自信を持つことで、
自己の安定を図るという生存戦略がある。

それと同じように、「いかにアレであっても、この人たちはみなペットを飼っているのだ」という
この揺るぎない事実が私にとって安らぎを与えてくれた。

どんなに強面な人であっても、自己紹介の最後に、
「家に帰るとペロという愛犬が待っててくれます」
と言ってしまえば、多くの人が好感やギャップ萌えに近い何かを感じてしまうのに似ている。
天秤計りの下がり先を決定付けるもの、と言ったら大げさだろうか。
それを根底に持っている人たちを見て、言い表せない安堵を感じてしまっている自分がいた。



横浜市には土地柄、坂道が多い。
私の住む街もご多分に漏れず、坂道が多かった。

夜22時。
この時間にはやや不釣り合いな赤いランドセルを背負った少女が、改札を出たところで、父親らしき人と合流した。
親子と思われる二人は、どちらともなく手を繋ぎ、仲睦まじく横に並んで歩き始めた。

緩やかな坂を下って家路に就く親子の後ろ姿は、何とも言えないほど画になっていた。
これをフィルムに収めたくない映画監督はいないだろう。
文章で表現できない情緒が、まさにそこにはあった。
興奮して、しばらく目を離していたら、二人はどこかに消えていた。

立夏をしばらく過ぎたくらいのある朝のこと。
ホームで電車を待っていると、件の二人がやってきた。
少女はランドセルから学生鞄へと衣替えをしていた。
白いシャツが眩しい。
心なしか身長も伸びている気がする。
しゃんと伸びた背筋が、余計にそう思わせたのかもしれない。

二人はあの時同様、手を繋いでいた。
電車が来ると、パッと手を離し、少女が先に車両に乗り込んだ。
父親も後を追った。
私は少し考えて、別の車両に乗り込んだ。
同じ車両に乗り込んでしまうと、頭の中のストーリーを急加速させることになると分かっていたからだ。
勝手な想像を膨らませることに、後ろめたさを感じていた。
特にあの清廉なシャツの前で、しゃんと伸びた背筋の前で、私は潔癖でいられる自信がなかった。

それ以来、あの二人を見かけたことはない。
衣替えの季節になると、今の姿を見て見たいと心が逸る。
それくらいは許してくれ、と人知れず思いを馳せている。

しをんのしおり (新潮文庫)

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